【シャニマス】アイドルたちによる童話や昔話シリーズは定期的に提供してもらいたい

『マッチ売りのあさひ』

《１》

ひどく寒い日でした。 雪も降っており、すっかり暗くなり、もう夜 —— 今年さいごの夜でした。 この寒さと暗闇の中、一人のあわれな少女、芹沢あさひが道を歩いておりました。 頭に何もかぶらず、足に何もはいていません。 家を出るときには靴をはいていました。 ええ、確かにはいていたんです。 でも、靴は何の役にも立ちませんでした。 それはとても大きな靴で、 これまで少女のお母さんがはいていたものでした。 たいそう大きい靴でした。 かわいそうに、道を大急ぎで渡ったとき、あさひはその靴をなくしてしまいました。 二台の馬車が猛スピードで走ってきたからです。

片方の靴はどこにも見つかりませんでした。 もう片方は浮浪児である七草にちかが見つけ、走ってそれを持っていってしまいました。 にちかは、いつか自分に子どもができたらゆりかごにできると思ったのです。 それであさひは小さな裸の足で歩いていきました。 両足は冷たさのためとても赤く、また青くなっておりました。 あさひは古いエプロンの中にたくさんのマッチを入れ、 手に一たば持っていました。 日がな一日、誰もあさひから何も買いませんでした。 わずか一円だってあさひにあげる者はおりませんでした。

ひらひらと舞い降りる雪があさひの銀色の髪を覆いました。 その髪は首のまわりに美しくカールして下がっています。 でも、もちろん、あさひはそんなことなんか考えていません。 どの窓からも蝋燭の輝きが広がり、 鵞鳥を焼いているおいしそうな香りがしました。 ご存知のように、今日は大みそかです。 そうです、あさひはそのことを考えていたのです。

二つの家が街の一角をなしていました。 そのうち片方が前にせり出しています。 あさひはそこに座って小さくなりました。 引き寄せたあさひの小さな足は体にぴったりくっつきましたが、 あさひはどんどん寒くなってきました。 けれど、家に帰るなんて冒険はできません。 マッチはまったく売れていないし、 たったの一円も持って帰れないからです。 このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。 それに家だって寒いんです。 大きなひび割れだけは、わらとぼろ切れでふさいでいますが、 上にあるものは風が音をたてて吹き込む天井だけなのですから。

《２》

あさひの小さな両手は冷たさのためにもうかじかんでおりました。 ああ！ たばの中からマッチを取り出して、 壁にこすり付けて、指をあたためれば、 それがたった一本のマッチでも、あさひは ほっとできるでしょう。 あさひは一本取り出しました。 　≪シュッ！≫　何という輝きでしょう。 何とよく燃えることでしょう。 温かく、輝く炎で、 上に手をかざすとまるで蝋燭のようでした。 すばらしい光です。 小さなあさひには、 まるで大きな鉄のストーブの前に実際に座っているようでした。 そのストーブにはぴかぴかした真鍮の足があり、てっぺんには真鍮の飾りがついていました。 その炎は、まわりに祝福を与えるように燃えました。 いっぱいの喜びで満たすように、炎はまわりをあたためます。 あさひは足ものばして、あたたまろうとします。 しかし、—— 小さな炎は消え、ストーブも消えうせました。 残ったのは、手の中の燃え尽きたマッチだけでした。

あさひはもう一本壁にこすりました。 マッチは明るく燃え、その明かりが壁にあたったところはヴェールのように透け、 部屋の中が見えました。 テーブルの上には雪のように白いテーブルクロスが広げられ、 その上には豪華な磁器が揃えてあり、 焼かれた鵞鳥はおいしそうな湯気を上げ、 その中にはリンゴと乾しプラムが詰められていました。 さらに驚いたことには、 鵞鳥は皿の上からぴょんと飛び降りて、 胸にナイフとフォークを刺したまま床の上をよろよろと歩いて、 あわれなあさひのところまでやってきたのです。 ちょうどそのとき——マッチが消え、厚く、冷たく、じめじめした壁だけが残りました。 あさひはもう一本マッチをともしました。 すると、あさひは最高に大きなクリスマスツリーの下に座っていました。 そのツリーは、 金持ち商人の家のガラス戸を通して見たことのあるものよりもずっと大きく、 もっとたくさん飾り付けがしてありました。

何千もの光が緑の枝の上で燃え、 店のショーウインドウの中で見たことがあるような楽しい色合いの絵があさひを見おろしています。 あさひは両手をそちらへのばして——そのとき、マッチが消えました。 クリスマスツリーの光は高く高く上っていき、 もう天国の星々のように見えました。 そのうちの一つが流れ落ち、長い炎の尾となりました。

「いま、誰かが死んじゃったんす！」とあさひは言いました。 というのは、愛依ちゃん——あさひを愛したことのあるたった一人の人、いまはもう亡き愛依ちゃん——がこんなことを言ったからです。 星が一つ、流れ落ちるとき、魂が一つ、神さまのところへと引き上げられるんだよ、と。

マッチをもう一本、壁でこすりました。 すると再び明るくなり、その光輝の中に愛依ちゃんが立っていました。 とても明るく光を放ち、とても柔和で、愛にあふれた表情をしていました。

《３》

「愛依ちゃん！」とあさひは大きな声をあげました。 「わたしを連れてって欲しいっす！ マッチが燃えつきたら、愛依ちゃんも行っちゃうっす！あったかいストーブみたいに、 おいしそうな鵞鳥みたいに、 それから、あの大きなクリスマスツリーみたいに、 愛依ちゃんも消えちゃうっす！」 あさひは急いで、一たばのマッチをありったけ壁にこすりつけました。 愛依ちゃんに、しっかりそばにいてほしかったからです。 マッチのたばはとてもまばゆい光を放ち、昼の光よりも明るいほどです。 このときほど愛依ちゃんが美しく、大きく見えたことはありません。 愛依ちゃんは、あさひをその腕の中に抱きました。 二人は、輝く光と喜びに包まれて、高く、とても高く飛び、 やがて、もはや寒くもなく、空腹もなく、心配もないところへ——神さまのみもとにいたのです。

けれど、あの街角には、夜明けの冷え込むころ、かわいそうなあさひが座っていました。 薔薇のように頬を赤くし、口もとには微笑みを浮かべ、 壁にもたれて——古い一年の最後の夜に凍え死んでいたのです。 あさひは売り物のマッチをたくさん持ち、体を硬直させてそこに座っておりました。 マッチのうちの一たばは燃えつきていました。 「あったかくしようと思ったんだなあ」と人々は言いました。 あさひがどんなに美しいものを見たのかを考える人は、 誰一人いませんでした。 あさひが、新しい年の喜びに満ち、愛依ちゃんといっしょにすばらしいところへ入っていったと想像する人は、 誰一人いなかったのです。

三匹の子豚

長男役樹里ちゃん
次男役灯織
三男役小糸ちゃん
狼役摩美々